東京高等裁判所 昭和36年(う)2428号 判決
被告人 圷昇
〔抄 録〕
控訴趣意一の(イ)(ロ)について。
按ずるに原判決が有罪の認定を為した昭和三十六年五月二十二日付起訴状記載の公訴事実によれば被告人が小寺満枝及び菅原辰男に譲渡したフエニルメチルアミノプロパン塩酸塩を含有する覚せい剤注射液入アンプル千本及び二百本は、いずれも二CC入アンプルである旨記載せられているところ、神奈川県鑑識課長の昭和三十六年一月十日付覚せい剤鑑定について回答と題する書面(別添として右鑑識課技術吏員宮下馨名義の同日付鑑定書あり)の謄本には、瀬戸げん方物置より押収せられたアンプル五百五十本(右起訴状記載の第一の分)の内三十三本に付右宮下において鑑定したところ、その内容はフエニルメチルアミノプロパン塩酸塩を含有する覚せい剤であつて、その液量は平均二、五CCであることが測定せられた旨記載せられていること、原審第三回公判調書には証人宮下繁は右鑑定書記載の平均二、五CCとはアンプルの中の液体の量であることを確認した旨記載せられていること、並びに神奈川警察署司法巡査吉武千代作の昭和三十六年三月二日付被疑者加藤甲司に対する覚せい剤取締法違反被疑事件についての差押調書謄本(控訴趣意書に神奈川県鑑識課長の回答とあるは誤記と認める)には、同巡査は右被疑者が差出した新聞紙包二個の覚せい剤注射液三CC入アンプル七十五本(右起訴状記載の第二の分)を差押えた旨、その押収品目録には覚せい剤注射液約三CC入アンプル七十五本と記載せられていて、いずれも原判決認定の2CC入アンプルとは異つた記載がなされていることは所論のとおでりある。
しかしながら被告人の司法警察員に対する昭和三十六年五月二日付及び同月十日付並びに検察官に対する同月十八日及び同年八月七日付(末尾添付の謄本共)各供述調書の記載、小寺満枝の検察官に対する同年五月十九日付供述調書の記載、中村こと菅原辰男の司法巡査及び司法警察員に対する各供述調書(但し前者は謄本)の記載、神奈川県警察署長の昭和三十六年一月五日付鑑定嘱託書謄本、司法巡査吉武千代作の昭和三十六年三月二日付差押調書謄本、神奈川県鑑識課長の昭和三十六年一月十日付及び同年三月二十日付の覚せい剤鑑定について回答と題する書面の謄本二通(別添鑑定書を含む)、丹羽吾市の司法警察員に対する供述調書の記載に徴すれば、被告人は昭和三十五年十一月初旬から同三十六年四月中旬にかけて、覚せい剤原液を製造した上、その頃これを使用して覚せい剤注射液となし、これを被告人が藤沢硝子株式会社より買入れた二CCアンプルにつめ、他に販売したものであつて、前示小寺満枝、菅原辰男に譲渡した合計二百本(但し小寺には他に破損分として百本添加しあり)もその一部分であつたこと、しかして小寺満枝の譲受分千百本中五百五十本は菅原辰男が瀬戸げん方物置に隠匿中、昭和三十六年一月五日警察官により押収せられ、その内三十三本の内容液につき前示宮下馨が鑑定したところ、その液量は各アンプル平均二、五CCであつたこと、また菅原辰男が譲り受けた二百本中七十五本は加藤甲司が保管中同年三月二日警察官によつて差押えられ神奈川県警察本部刑事部鑑識課技術吏員吉村武彦において、その内三十本を破壊し鑑定したところ、フエニルメチルアミノプロパン塩酸塩を含有する覚せい剤であつて、その内容量は合計八〇、六CCあり、従つて一本当り平均二、六CC強と測定せられたことをそれぞれ認めることができる。よつて被告人は本件アンプルを藤沢硝子株式会社より二CC入アンプルとして買受けたけれども、事実は二、五CCないしは二、六CC強も容れるに足りるものであつたことが認められるから所論の宮下馨の鑑定書に瀬戸げん方物置より押収せられたアンプルの内容は平均二、五CCである旨の記載があり、且つ右宮下が原審第三回公判期日において同趣旨の証言をしたとしても、右鑑定の用に供せられたアンプルが、被告人が小寺満枝に譲渡した前示二CC入アンプルの一部分であることを認定する妨げとなるものでないことは明らかである。また菅原辰男が譲り受けた前記アンプルには平均二、六CC強の覚せい剤注射液が入つていたことは前示認定のとおりであつて、アンプルに液量の表示もなかつたことは記録に徴し推認し得られるところであるから、司法巡査吉武千代作が加藤甲司占有のアンプル七十五本を差押えたとき、これを三CC入アンプルと認めたことも已むを得ぬところと考えられるので、同巡査は右認定に従いその差押調書には三CC入アンプル七十五本(尚押収品目録には約三CC入アンプル七十五本)と記載したものと認むべく、従つて調書にかかる記載がせられていることを以て、右差押にかかるアンプル七十五本が菅原辰男が被告人より譲受けた前示二CC入アンプルの一部分であると認めることの妨げとなるものでないこともまた多言を要しない。
要するに証拠によれば、所論のアンプルは内容量の相違はあつても、被告人の製造譲渡した覚せい剤であることは明らかであり。この点については原審において十分審理を尽しているから、所論の如き審理不尽の違法はない。
(三宅 東 井波)